原発事故:「地域」設定の疑問

2011年3月27日

東日本大震災から2週間が過ぎました。私も羽越水害で被災した経験がありますが、今回の震災で犠牲になった方はすでに1万人を超えており、その惨状に言葉もありません。
その震災報道とともにニュースになっているのが福島第1原子力発電所での事故です。震災同様こちらの事故も地域住民に深刻な打撃を与えているのはご承知のとおりです。私の居住地でも、モニタリングされた最大放射線量が平常値を超える値を示した日があり、心配している人も少なくありません。
さて、この原発事故の報道で不思議に思ったことがあります。
まず、避難勧告地域が同心円で示されたことです。私はこの同心円を見て、ヨハン・ハインリヒ・フォン・チューネンの農業モデル(チューネン圏)図を思い出しました。しかし、このチューネン圏は普遍性のあるモデルとしてつくられたものだから有効性があるのです。避難を勧める行政側としては、避難勧告地域をこのような同心円で示した方が動きやすいのかもしれませんが、地形や大気などの影響を受ける放射性物質はどう考えても原発を中心に同心円状に拡散することはないでしょう。海外メディアの報道よりも遅れて公開されましたSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)のデータもそのことを物語っていました。「生きられる空間」を変更するというのは、住民にとってたいへんな負担であることは言うまでもないのに、なぜ「同心円」という前近代的な地域設定しかできないのかが不思議でなりません。
もう一つあります。農産物の出荷制限や農作業の延期を福島県が県民に呼びかけたことを報道で知りました。不思議に感じたのは、その範囲が「県」という行政範囲で一律に行われたことです。ケンミンショウなどのTV番組的に考えると当たり前のように思われるかもしれませんが、この都道府県という領域を1つのまとまりとしてみられない所も少なくないですね。福島県も天気予報ではご存知のように「浜通り」「中通り」「会津」という3つの地域に区分されています。福島県庁は自分のことを他県の人よりも分かっているのに、全県をひとまとまりとする対応をとったのです。行政側にすれば、細分化して提示することで生じる問題を予見してこうした対応をとったのだと思いますが、個人的には対象地域を市町村単位ぐらいまで具体的にしてほしかったです。根拠となるデータがないのかもしれませんが、きちんと説明すれば福島県民も理解してくれると思うのですが・・・
福島県地域区分図 wikipedia
最後に、行政側がこうした大雑把な提示をし、それを主権者である国民(県民)を寛容に受け入れてしまうのはどうしてなのかという疑問が頭をよぎります。
極論ですが、日本に限ったことではありませんが、社会認識における空間的な側面に関する教育の課題があるように思います。学校教育において「地誌」的な学習が重視されることになりましたが、スケールの問題も含めて、その対象である領域の「切り取り方」や「語り」について再考する必要をあらためて感じています。